「質」と「量」の好循環の事例

「量」を確保するためには、「質」を高める事が重要なことは十分に理解されている事と思いますが、「質」を高める研修等の人材育成の実施に対して現場の声は
「人が足りないのに、何を今さら研修なの!」
「研修では変わらない!!良くならない!上の人は現場を知らない!」
「そんなお金があるなら人を入れてよ!!人を!」
「そんな時間はない!それよりも今どうするの!わかってないな!」


このような状態では、
「質」を高める事ができなく、
「量」=人も集まってきません。


下図左側の悪循環ですね。




下図右側の様な好循環にするためには、
法人・施設・職員が目的に向かって協力し合う事が必要です。
簡単な事ではないですが、できない事ではありません!

6年前、研修や会議ばかりで疲弊していた法人が、好循環に入った事例を紹介します。


[事 例]
思い切った組織体制に切り替えて2年、「質」と「量」の好循環が生まれた事例を紹介します。この事例の社福は開設して11年、人材育成こそが法人理念の達成の道標として力を入れています。

ピーエムシーとの関わりは6年前の2012年からです。当時「人が足りていない」「研修・会議をしても職員に浸透しない」等、現場と法人の理想のギャップで職員は疲労困憊していました。公休の買い取り、14時間の超勤が週に2回、休憩が満足に取れない等で退職者もゾロゾロの状態で、退職した人材の補完もままならず、「質」が高まらず「量」も確保できない悪循環の状態でした。

端的に言えば「やらされ感」が蔓延していました。法人の理念理想は素晴らしく、こんな施設で働ければ「やりがい」や「自己成長」ができ楽しく仕事ができます。しかし、施設長、課長、主任、リーダー、一般職が研修・会議で振り回されていました。

そんな苦労している中、技術未熟者に対してのトランス介助やひのきの個浴介助を研修で教えても、現場での悩みや疑問に対して答える事ができておらず、新人や中堅の不安が広がってきた事から、「施設内でいつでも疑問や相談にのってくれる人がいたらどれだけいいか」という声が上がってきました。

新人職員育成100日プログラムの新人面談からも「ユニットで聞きたくても聞く人がその時にいない」、指導者面談からも「教えたくてもシフトで合わない日が多くて教えられない」等の不安や不満を聴く事が多く、法人・施設と対応を協議していました。

法人が動きました。
今後、入職してくる人材は専門性がなくより多様な人材になってくる事も考え、シフトに入らない独立した「人材育成チーム」を創ろうと新たな体制が2年前に発足しました。

 
組織体制の切り替え
①人材育成担当副施設長の創設 ・・・委員会や会議、研修の統括
②リクルート専門課長職の創設 ・・・人材育成チームと併合してリクルート強化
③人材育成チームの創設    ・・・現場での相談指導、スキル研修等
④主任をシフトから外す    ・・・主任の役割を明確した上での独立



 [効果と職員配置の変化]
 2016年度から開始、2016年度は人材育成チームと主任の独立が難しく現場のシフトに入る事が多くありましたが、2017年度は職員の欠勤以外シフトから外す事ができました。

シフトから外れる事ができた理由は、主任、人材育成チームが細やかにユニット支援を行っていくことで、トランスや個浴介助、認知症対応など不安に思っていた職員が相談や支援をタイミングよく得た事やリーダーの悩みに対して相談援助が必要なタイミングでできた事などが、リーダーや一般職に不安や不満でなく安心感が培われてきて、職員の皆さんがその職位の必要性を感じ認めてきたからです。

また、人材育成担当副施設長が委員会や会議の統括をする事で、法人や施設や現場でのボトルネックを発見整理し現場に落と込むことで「言いぱなし」「やりぱなし」ではなく、また「やらされた感」でなく自分たちに必要な事として受け止めはじめてきています。



下表は職員配置の変化を一覧にしています。




[結 果]
  1. 2012年は介護職が71人で「人が足りない」でした。2017年度2月時点での介護職48人です。法人・施設は48人で足りているとしていません。2018年度4月の8名入社で介護職が55名になり、2018年度はユマニチュードの手法を取り入れ、更なる利用者目線での介護支援を目指しています 。
  2. 全員参加型研修(介護課、看護課、支援課、総務課、栄養課、シルバー課、パート、保育)で全職員120名を3班に分けて、働きやすさと不適切ケアをテーマに価値観を共有できる話題でグループワークをしました。他職種の方とのコミュニケーションは活発で、「法人の強み」に対する発表は、とてもポジティブな発言ばかりです。
    「向上心日本一」「人の良さ、意見が出しやすい」「おもてなし、挨拶、笑顔」「情報をあいまいにしない」「辞める人が少ない」「笑顔が絶えない」など
  3. 介護職48名体制(介護配置2.8:1)で、上記全員参加型研修3回とも全て勤務時間内でできる様に対応しています。
  4. 2012年度の公休取得率90%、超勤20時間、退職者8名が、2017年度では介護職員が23名少なくなっても公休取得率100%、超勤6時間、退職者3名と勤務環境の改善が目に見えて良くなってきています。2018年度の超勤の目標はゼロです。
  5. 組織体制の4つの変革は、職員にとって自分自身の不安や悩み、そして不満を十分に解消できる事で、受入る事ができてきています。また、その事で法人の方針は自分自身の成長するためには必要な事として認識してきています。
  6. 看護、PT/OT、相談員、ケアマネ、栄養、シルバー等の他職種の方とのコミュニケーションも良く、いかに連携して利用者のADLBPSDの向上を図るかを考えながら仕事をしています。
  7. 5S活動は、シルバーの経験知恵を上手く活用しています。材料単価を記載してコスト意識を植え付けています。


[考 察]

好循環になったポイント
  1. 法人トップのトップダウンが強く、目標や理念の意識付けや達成に向けての声掛けや支援を細やかに行っていること
  2. 中間管理職が機能するようになり、更なるトップダウン、そしてボトムアップできるようになったこと
  3. 主任、人材育成チームが細やかにユニット支援を行い、「コミュニケーション=信頼」が違和感なく繋がり、「チームワーク=目的意識」が熟成されてきたこと


振り返り  
法人常務、施設長、人材育成担当副施設長、リクルート専門課長、人材育成チーム、主任、リーダー、新人指導者、新人、看護課長、栄養課長、支援課長(相談員、ケアマネ)、シルバーさんと話をしました。皆さん、毎日を楽しくやりがいを持って仕事して、法人・施設で働く事を誇りにもっています。



6年前、不安や悩み、そして不満を持ちながら仕事をこなしていました。法人が求める理想の介護をしていきたくても、定着性が悪く、また人が中々補充できない事もあり、モチベーションやスキルの低下が目に見えてきていました

この法人・施設・職員が2年前から変化した理由は、人がいない中でも「組織体制の切り替え」に踏み
切った事だと思います

その中でも上記ポイント3の『主任、人材育成チームが細やかにユニット支援を行い、「コミュニケーション=信頼」が違和感なく繋がり、「チームワーク=目的意識」が熟成されてきたこと』が、職員に安心感を与え中間管理職の機能を動かし、法人トップのトップダウンを上手に職員に伝えることができ、職員からのボトムアップにも繋がってきていると思います。


「ひとりだち」と「一人前」の違い、わかりますか?

皆さまの法人および施設での新人育成の到達点は「ひとりだち」「一人前」どちらでしょうか?
また、「ひとりだち」「一人前」の定義を明確にしていますでしょうか?
 
ピーエムシーが考える「ひとりだち」と「一人前」です。






多くの介護事業所では、夜勤が一人でできシフト上1になった段階で「ひとりだち」と言われているようです。「ひとりだち」に向けての新人育成は概ね36ヶ月を目途にしているとことが多く、新人がシフト上1人工の「ひとりだち」になった段階から、新人への関わりが急激に少なくなり、体系的継続的な新人育成が何となく終了しているようです。
 
具体的な「ひとりだち」「一人前」の定義が明確化されていない事から、関わる指導者や上司も新人を「ひとりだち」から、ある日突然と定義のない「一人前(何となくできる」扱いにしていませんでしょうか?
 
そして1年が過ぎ、法人の「初任者研修」「2年目研修」等の階層別研修を実施することで不安・不満を持ったままの「一人前(現任者)」になり、そのまま時間が経過することで、組織の中で不安や悩みを持ったままの中堅職員になっているのではないでしょうか?
 
よく「中堅職員が育っていない」という声を聞きます。
それは、「ひとりだち」からあるべき姿の「一人前」への指導を受ける機会がなかった事が大きな要因の一つと思われます。
 
これからの「人がいない」時代、少しでも多くの人材を戦力化し、生産性を上げていく必要があります。
 
「ひとりだち」から「一人前」への道しるべを新人育成1年目で創りませんか?
難しい事ではありません。下図右の項目を実施できる仕組みを創るだけです。
 
 
法人の中には、プリセプター、チューター、エルダー、ブラザー制度を取組み、上記の事を含めて1年間、新人育成をしっかりしているところもあれば、上手くいっていないところもあります。プリセプター制度等はとても良い仕組みです。それをどう活かし実践していくかが課題です。



下図は、ピーエムシーの新人育成のキャリアアップです。青色のラインが成長の道しるべです。「ひとりだち」から「一人前」そして指導者レベルを目指しています。ご参考まで・・・

 
 

リーダー育成は法人研修?それとも施設研修?

ピーエムシーは2年前から施設単位での管理者・リーダー育成に焦点を合わせてきています。
今回は、前回のブログ「人材育成の具体策 なぜ今、リーダー研修が必要なのか?」のフォローになります。


出典:厚生労働省 第6回社会保障審議会福祉部会 平成28105日資料(一部変更)
は、リーダーの要件として、介護福祉士として5年程度の実務経験者
は、リーダーの役割として、チーム内の介護職に対する指導・教育・フォロー
は、リーダーのキャリアパスに向けた対応として、チームリーダーとして必要な知識等の修得に向けた現場での研修プログラムの導入

の研修プログラムの導入は、多くの法人ではキャリアパスの階層別研修としてリーダー研修が行われているところですが、ここでのポイントは現場での研修プログラムの導入という点です。
皆さん、気づかれましたか?

社会保障審議会福祉部会福祉人材確保専門委員会の報告書(平成2910月)では、
介護職のグループにおけるリーダー育成として
 『リーダーは、介護職のグループによるケアを推進していく者であり、その役割を担うにあたっては、観察力、判断力、業務遂行力、多職種連携力、人材及びサービスのマネジメント力など多様な能力が必要となる。こうした能力については、理論的な知識・技術の修得に加えて、現場の実践の中でそれらを深化していくべきである』としている。

つまり、リーダーの育成の深化は、現場での実践としています。

前回のエッセイ(2018.1.22)「人材育成の具体策」としてのリーダー育成は、法人の階層別研修でなく、施設単位での階層別研修の提案でした。
この違いを理解していただいていたでしょうか?


【前回のエッセイでのリーダー育成の提案】

同じ施設であってもユニット(フロア)間のノウハウやちょっとした工夫、改善方法等の情報を共有し、それを元に積極的に討議し、自己の職場の改善につなげるという仕組みや風土が醸成されておらず、管理者やリーダー個々のスキルに左右されている。そして、なすべき業務(作業)手順、責任範囲等が明確にされていないため、職員一人ひとりの役割分担や連携が不十分になっている。

そのため、施設単位でリーダーの不安や悩みを共有共感する場を作り、リーダー自身が職場を改善しようとする意識・意欲・課題把握と解決するための具体的な知識、方法等を学び習得できる仕組みを風土として醸成するための研修を行う。

リーダー育成」の具体的な提案は、施設単位で毎月13.5時間12回の実施1年間の研修を施設の全リーダー(主任等含む)で行う案としています。