41.リーダーシップからの学び(4) リーダーに、リーダーシップを醸成させる具体的な仕組み作り

私は、介護の社会での「個人の成長」は、個人の努力だけで期待することは難しい。「職場の成長」「組織の成長」ができる仕組みがあって、はじめて「個人の成長」が促されると書いてきております。言い換えれば、職場に職場・組織を成長させる風土」があるかどうかで「個人の成長」は大きく影響を受けるということです。

エッセイ「22.職場・組織・個人を成長させる風土とは!」を同時添付しております。もう一度、このエッセイに目を通していただきたいのです。自分で言うのは恥ずかしいですが、成長させる風土」の学びを深める事ができるエッセイです。

下記は、上記エッセイの中で紹介している東京大学大学院教授(20184月現在、立教大学教授)中原淳の著作「職場学習論‐仕事の学びを科学する」の一文です。

中原淳.職場学習論 仕事の学びを科学する.東京大学出版会,2010188p(一部変更、赤字追加)












著作「職場学習論‐仕事の学びを科学する」で筆者中原淳が、本書を通して最も主張したかったことは、下記の2つです。






中原淳が、「職場学習論‐仕事の学びを科学する」を通して最も主張したかった『人間の学習や成長に対する〈他者〉の重要性』『自己に完結せず〈他者〉に開かれていること、〈他者〉の介入やつながりの中にあることで、私たちは成長できる』の2つのことを、私なりに介護の社会に当てはめて「職場の成長」「組織の成長」そして「個人の成長」に繋げることができるかを考えてみます。


厚生労働省の社会保障審議会福祉部会福祉人材確保専門委員会は、「2025年に向けた介護人材の確保~量と質の好循環の確立に向けて~」において、201710月の報告書「介護人材に求められる機能の明確化とキャリアパスの実現に向けて」で具体的な方策をとりまとめ、その具体的な提言の一つとして「介護職のグループにおけるリーダーの育成」であるとしています。グループのリーダーの育成に関するキャリアパスが下図の赤で囲った部分になります。
厚生労働省 第6回社会保障審議会福祉部会 平成28105日資料

上記報告書の基である三菱UFJリサーチ&コンサルティングの平成29年度「介護人材の機能分化のための人材育成プログラムに関する調査研究報告書」の第4章まとめの最終ページに図「人材育成の成長に必要な要素の関係性」が記載されています。この図を見て皆様は理解できますでしょうか。
エッセイ「17.理想と現実のギャップを受け止め、成長させる組織プログラムとは!」を参照願います。





国は、介護現場の人材育成の要は「介護職のグループのリーダー育成」としています。この事は、弊社ピーエムシーも共感しているところであり、中原淳の「職場学習論‐仕事の学びを科学する」を考慮した上で、国でいう「介護職のグループのリーダー育成」との関連性から「職場の成長」「組織の成長」そして「個人の成長」にどう繋げることができるかを考えてみます。

本エッセイの前段で紹介した中原淳が主張したい2つの本質『1.人間の学習や成長に対する〈他者〉の重要性』と、『2.自己に完結せず〈他者〉に開かれていること、〈他者〉の介入やつながりの中にあることで、私たちは成長できる』ことと、後段で紹介した「介護職のグループのリーダー育成」と「人材育成の成長に必要な要素の関係性」を有効に関連づけることができれば、中原淳が言う「ブラックボックス」と化していた「職場における人々の学習」にアプローチすることができるのではないかと私は考えます。

すなわち、下図赤囲みの範囲介護職のグループのリーダーが、他のリーダー〈他者〉と共に現実とあるべきケアの姿のギャップ〈課題〉に対して改善意識を持って、挑戦することができる仕組み』と、『この仕組みから生み出されてきた現実的な課題や提案を施設・法人の上司が真剣に向き合うことができる体制作り』が介護の組織の中にできれば、中原淳の「人が成長する職場というものは、どのような組織的特徴を持っているのか」について実証的に探究ができ、「職場の成長」「組織の成長」そして「個人の成長」に繋げることができると考えます。

http://www.murc.jp/uploads/2017/04/koukai_170501_c10.pdf 232p(一部変更)



リーダーが理想と現実のギャップに伴う「介護現場の不安や不満」を、他のリーダーである他者と真剣に話し合う場から発見され生まれた「具体的な課題」、そしてその課題を解決するためのアイデアを見つける努力、その課題や提案を真剣に受け入れる組織体制こそが、「職場の成長」「組織の成長」を促すとともに、リーダー個々のリーダーシップを醸成することができ「個人の成長」に繋がることができます。これが介護現場における「成長させる風土」作りの一つではないかと私は思います。

下図は、前のエッセイ「22.職場・組織・個人を成長させる風土とは!」に掲載した中原淳の「職場学習のモデル」と「リーダー同士が話し合う場」「具体的な課題、提案を受け入れる組織体制」を重ね合わせた図です。中原淳は、下図の「職場学習のモデル」の組織風土にするためには、現場のマネジャーすなわち施設長の力量によると言っている。

中原淳.職場学習論‐仕事の学びを科学する.東京大学出版会,2010148p.(一部変更)




皆様の中で、「こんなことを話し合うことは、うちの職員のリーダーには無理だよ」「リーダーには、こんな事を考える力がない、こんなことよりも技術や知識が先だよ」「人がいないので、こんなことできないよ」と思われる方もいますよね。

しかし、「いや、谷さんのいうとおり、大変だけど仕組みを作らないとね」「うーん、厳しいけど、考えなければならない」「リーダーだけでなく、主任や監督職も課題だ」と課題として取り組まれていく方もいます。

この違いって何でしょうか。
これこそリーダーシップの根幹かもしれませんね。

次ページに参考まで「ビジョンのリーダーシップもしくは夢の旗幟」を引用しています。
以下、高沢公信氏のホームページから引用文です。http://ppnetwork.c.ooco.jp/

ビジョンのリーダーシップもしくは夢の旗幟

町工場の井深大と盛田昭夫は世界を掲げ,作り始めたばかりのオートバイで本田宗一郎はマン島TTレースを目指した。これがビジョンだ。それは,自分たちが日々達成する目標や労苦によって果されるべき未来を指し示すものでなくてはならない。それを実現するために,いまの戦略があり,目標がある。GEのウェルチは,21世紀への生き残りを掛けて,「ナンバーワン・ナンバーツー」「ワークアウト」「スピード,簡潔さ,自信」「スピード,高い目標設定,組織の壁のない企業」「シックスシグマに基づく品質改善」等々と,次々旗を掲げ,ダウ銘柄に百年を超えて唯一残り,なお最高益を更新しつづける。しかしウェルチは,次々と打ち出す旗を目的化することはない。それは「何かを達成するため」であって,理念やビジョンそのものではない。たとえば,織田信長の天下布武はビジョンだが,武田信玄の風林火山は戦略いや戦術でしかない。風林火山によって何を目指すのかが信玄にはなかった。それは戦略の問題ではあっても,ビジョンではなかった。

とった戦略や戦術,目指す目標が,何のためなのかを語れないリーダーは戦いや目標そのものを目的化している。そこに未来はない。構造改革も,規制緩和も,リストラも手段に過ぎない。それを達成しても,次々に新たな負荷が加わるだけなら,時代や状況に追い立てられているだけだ。

リーダーシップとは,リーダーである(状態を保つ)ためのスキルであり,組織は何のために存在するのか,その目的からみて目標・手段は適切か,あるいはその目的はいまも重要か,もっと別の目的を創れないか等々と,問いを続ける姿勢である。その答えがビジョンであり,旗幟である。組織の旗幟を鮮明に掲げ続けられるかどうかは,リーダーが組織の目的とどう格闘したかの結果であり,そこにこそリーダーシップが必要なのである。戦術・戦略を語るのはその後である。




誰がその立場に立っても与えられた役割しか果たさないなら,誰がリーダーになっても同じである。今日官民問わず日本の組織が硬直化しているのは,一人一人が,自分に与えられた役割と格闘し,目的達成のために,何をすべきか,何にウエイトを置くべきかを主体的に考えようとしないからだ。リーダーは,リーダーとしての立場と役割とは何かを自問しながら,何を目指すことが組織の未来を決することになるのかと,組織の目的と格闘し,その方向と行く末を描き出していく。下位者一人一人もまた順次,それを実現するために何をしたらいいか,それぞれの役割の目的と格闘しながら,主体的に考えていく。そういう組織が硬直化するはずはない。

その責は,ひとえにリーダーシップの硬直化そのものにある。ビジョンを掲げぬリーダーには説明責任どころか結果責任も果たせないだろう。リーダーシップに弁解はない。掲げたビジョンそのものがすべてを語るからだ。そのビジョンは,それを実現するために何をすべきかを,メンバー一人一人に考えさせ値打ちのあるものなのかどうか。リーダーはその是非で,おのれのリーダーシップを問われるだろう。しかしいま,問うに値するビジョンがどれだけ掲げられているだろうか。
以上
いかがでしたか?

介護の社会、「人がいない」「忙しい」等のことで、「利用者目線での介護」など職員の成長を期待するものの、実際は「業務をこなす」ことになり、職員の成長(学習)に対する想いがどこまで体系的に、真剣に、強く持っていますでしょうか。

「職場学習論」は、企業組織を扱う経営学と、学習の問題を扱う教育学、あるいは学習論の狭間にぽっかりあいた学問分野である。この狭間の奥深いところに、誰もが目にするビジネスパーソンの学習や成長の問題は眠っている。(「職場学習論」P3からの引用)

私たちピーエムシーは、この狭間であり眠っていた「職場での学習」に目を向け、リーダー育成、指導者育成、全員研修の3つの研修を実施し、介護職員の学習や成長、そして職場、組織の成長への過程を探究することを研究課題とし、介護の社会に何らかの提言をしていきたいと考えております。







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