[2]少ない職員でも質の高いサービスを継続的に提供できる体制づくり

少ない職員でも、質の高いサービスを継続的に提供できる体制づくりに不可欠なのが、チームワークとコミュケーションです。組織の目標を達成するためには、高いチーム力が必要ですし、チーム力を高めるためには適切なコミュニケーションが必要になります。

チーム力とコミュニケーションを高める為には、価値観を共有できる話題を意識的に取り入れた具体的な研修が、職員の価値観を共有することに繋がり、施設全体のチームとしての意識、連帯感を生みだすことができます。

下図は、国の「介護人材のキャリアパス全体像」です。
国は、介護人材のキャリアパスを実現させるためには「リーダーの育成」を必要とし、リーダーが担うべき役割と求められる能力について提示していますが、具体的な育成方法については提言していません。

ピーエムシーはリーダー育成を含めた「質を高める」ことに対する具体的な育成方法に対して研究開発しています。
一つの在り方として「1.全員研修 2.リーダー研修 3.新人・指導者研修」という3つの研修を施設の中で複合連鎖させることが、施設全体の「質の向上」と「職員のモチベーション、チームワーク、コミュニケーションを高める」ことができるとしています。


出典:厚生労働省 第6回社会保障審議会福祉部会 平成28105日資料(これを基に作成)


1.全員研修
 「お互いを認め合う施設職員の雰囲気をつくる(関係の質の向上)」

  • 施設の現状について事前アンケートをもとに全員が話し合い共有する
  • 全員で決めたグラウンドルールを全員で意識して実践する(チームワークの向上)
  • 第三者だから伝えることができる情報で学ぶ(現状認識→自覚→共感→意識変革)

毎年2回、施設全員で統一したテーマで話しあいを行い、皆で決めたグランドルールの実践に伴い、チームワークやコミュニケーションの風土を醸成していきます。初期のアンケートからは「人が足りない」「サービス残業」「休めない」「サービスの質が落ちている」などのネガティブな表現も出てきます。それぞれの職員がそれぞれの想いを持って仕事をしています。この想いを共通課題として、人のいない中で、どのようにして働きやすい職場にしていくかを考えていく場にしていきます。ファシリテーターは第三者で行うことを推薦します。また、施設長が全員研修の話を聞くことが重要です。施設全員とは、事務職、多職種、パート、シルバー等施設で働く人全員です。一部の職員だけの研修ではなく、自分たちも参加し意見を出している風土が必要です。ここで決まったグランドルールやアンケート等はリーダー研修に使います。


2.リーダー研修
 
「リーダーは中堅のロールモデルになる(関係の質の向上)」
  • リーダー全員が法人・施設の現状を理解し、課題意識を持つ
  • リーダー全員が自分の役割を理解し、前向きに取り組もうという意識を持つ
  • SQ値(社会性)、PM指導行動尺度(リーダーシップ)、介護専門職自立性尺度(専門性)を使用し、受講生に研修前後での数値向上を意識して参加行動してもらう [個人の成長]
  • 全員研修で使用した評価シートとアンケートを使用し、組織やセクションの働きやす
     さを意識して参加・行動してもらう [組織の成長]
 
ここで言うリーダーは施設のユニットリーダークラスです。従来型ですと主任、副任、フロアリーダークラスを考えます。頻度は、月13.5時間を1年間12回の設定です。
「人がいない」「無理だ」ではなく、自分たちのために行う貴重な時間だとの意識が必要でここはトップダウンですね。ボトムアップのレベルではないかと思います。
「中堅職員が育っていない」、「リーダーになりたくない中堅が多い」などよく耳にしますが、このリーダー研修は「中堅のロールモデル」になる事が目標で、チームワークやコミュニケーションの風土を醸成していきます。ここに焦点を合すことが、少ない職員でも、質の高いサービスを継続的に提供できる体制づくりに近づきます。

 
3.新人・指導者研修
 

「指導者は新人のロールモデルになる(関係の質の向上)」
  • 指導者は100日プログラムを通して、チーム育成の本質と必要性を学びます。
  • 人を教え育てることを学びます。[指導者の成長
  • 新人は、「不安や悩み」「できる・できない」「わかる・わからない」が明確になり、正し い成長ラインに乗ることができます。[新人の成長
  • チームとの連携や新人にあわせた個別指導、指導者支援の環境づくりの実践です。[組織の成長
 
 
人は、仕事を通じて自己成長していきます。しかしながら昨今の介護の社会は、人が足りていないという事などで、不安や不満を募らせ「仕事をこなす」職員も少なからずいます。「仕事をこなす」「利用者目線で質の高い介護をする」などは個々の職員様々の資質素養にも関係しますが、組織として自己成長を促すマネジメントが整っていない施設もあるかと思います。今回のエッセイは、具体的な環境づくりの支援内容としてご参考にしてください。
 
 
関連エッセイ
■新人育成が、指導者・中堅職員(リーダー)を育てる! 2018120
■人材育成の具体策「なぜ今、リーダー研修が必要なのか」 2018122日  
 

[1]少ない職員でも質の高いサービスを継続的に提供できる体制づくり


私のエッセイは、「人材育成」が「人材確保」へと繋がり、かつ「職員の働きやすさ」と「法人の利益」へと発展し、

新潟日報の記事から外国人介護士を考える


外国人技能実習生のエッセイを皆さまに発信した翌日(36日)に新潟日報にて「外国人受け入れ、 変わる介護

外国人技能実習生について考える


先日、お世話になっている施設長から「谷さん、ある会合で外国人技能実習生の話題があり、どの施設長も人の

具体的な「質」と「量」を確保する考え方を別視点から学ぶ!

2018214 - 安倍晋三首相は午前の衆院予算委員会で、「働き方改革」関連法案をめぐり、 裁量労働制に関する1月29日の答弁について労働時間に対するデータの信憑性の欠落から「撤回するとともに、おわび申し上げたい」と陳謝した。

2025年時点の全産業別需給ギャップ583万人の人手不足に対する解消に向けた4つの選択肢から665万人の新たな雇用を生みだす事を国が計画している話を前のブログで書かせていただきました。



この665万人の創出で下図左のように人手不足を補完したい日本ですが、下図右の女性を350万人雇用するストーリは、今回のデータと同じく無理して帳尻合わせをした感じがする私がいます。



スウェーデンは高福祉・高負担の国で消費税率が25%で社会福祉は充実し、女性が働く環境は整えられています。しかし、日本の消費税率は8%で出生率、子育て、待機児童等々の課題でさえも一つも解決されていません。そんな中で、国はスウェーデンと同じ女性の就業率を期待し350万人の労働人口を2025年の人手不足解消の政策に入れてきています。

安部総理の肝いりでスタートした介護離職ゼロに向けた2020年初頭12万人分の基盤整備自体が人手不足で1割しか達成していない事実も「人材確保」が計画どおりに進んでいない一つの裏付けでもあり、何度もこのエッセイで書いている「人がいない」現実を介護事業者はもっと認識していく必要があるのではないでしょうか。

ピーエムシーは、「人材の確保」は「人材の育成」からと下図「質」と「量」の好循環を提言していますが、現実の介護事業所様は「わかってはいるができない」ではないでしょうか・・・。


できない理由の一つには、介護職員の多くは職員が辞めていく中で、人が確保されない事での不安や不満が溜まってきている事、また職員の疲弊感を介護事業所の経営者が感じるからだと思います。介護職員は、研修などの人材育成でなく「人を入れて欲しい」です。すなわち「量」の確保が先で、「質」の確保は「量」が充足してからの考え方です。



下記は介護SOSというブログからの引用です。(http://www.kaigosos.com/
介護施設の「不毛な会議」というブログの一部ですが、リーダー会議の「人材不足」の考え方が端的に表現されていてとてもわかりやすいです。

 
 最後の「人員不足の現状をどう受け止めどう対策すのか?」がとても重要な事で、介護職員は、「人」を確保して欲しいが、実は経営側にこの事を問うてもいるのです。
 
この「どう受けとめてどう対策するのか?」について、
下記ダニエル・キム氏が提唱する「組織循環モデル」をもって具体的に考えてみます。








介護事業所の「不毛の会議」は、バッドサイクルに入っており、介護職員が求める「人員不足の現状をどう受け止めどう対策すのか?」は、グッドサイクルへの挑戦する事ではないでしょうか? 「人がいない」現実に直視し、「不毛の会議」ではなく組織の成功循環モデルであるグッドサイクルへの挑戦、すなわち「質」と「量」の好循環への挑戦に繋がります。 
施設のリーダー研修は、グッドサイクルに最適です! 

「質」と「量」の好循環の事例

「量」を確保するためには、「質」を高める事が重要なことは十分に理解されている事と思いますが、「質」を高める研修等の人材育成の実施に対して現場の声は
「人が足りないのに、何を今さら研修なの!」
「研修では変わらない!!良くならない!上の人は現場を知らない!」
「そんなお金があるなら人を入れてよ!!人を!」
「そんな時間はない!それよりも今どうするの!わかってないな!」


このような状態では、
「質」を高める事ができなく、
「量」=人も集まってきません。


下図左側の悪循環ですね。




下図右側の様な好循環にするためには、
法人・施設・職員が目的に向かって協力し合う事が必要です。
簡単な事ではないですが、できない事ではありません!

6年前、研修や会議ばかりで疲弊していた法人が、好循環に入った事例を紹介します。


[事 例]
思い切った組織体制に切り替えて2年、「質」と「量」の好循環が生まれた事例を紹介します。この事例の社福は開設して11年、人材育成こそが法人理念の達成の道標として力を入れています。

ピーエムシーとの関わりは6年前の2012年からです。当時「人が足りていない」「研修・会議をしても職員に浸透しない」等、現場と法人の理想のギャップで職員は疲労困憊していました。公休の買い取り、14時間の超勤が週に2回、休憩が満足に取れない等で退職者もゾロゾロの状態で、退職した人材の補完もままならず、「質」が高まらず「量」も確保できない悪循環の状態でした。

端的に言えば「やらされ感」が蔓延していました。法人の理念理想は素晴らしく、こんな施設で働ければ「やりがい」や「自己成長」ができ楽しく仕事ができます。しかし、施設長、課長、主任、リーダー、一般職が研修・会議で振り回されていました。

そんな苦労している中、技術未熟者に対してのトランス介助やひのきの個浴介助を研修で教えても、現場での悩みや疑問に対して答える事ができておらず、新人や中堅の不安が広がってきた事から、「施設内でいつでも疑問や相談にのってくれる人がいたらどれだけいいか」という声が上がってきました。

新人職員育成100日プログラムの新人面談からも「ユニットで聞きたくても聞く人がその時にいない」、指導者面談からも「教えたくてもシフトで合わない日が多くて教えられない」等の不安や不満を聴く事が多く、法人・施設と対応を協議していました。

法人が動きました。
今後、入職してくる人材は専門性がなくより多様な人材になってくる事も考え、シフトに入らない独立した「人材育成チーム」を創ろうと新たな体制が2年前に発足しました。

 
組織体制の切り替え
①人材育成担当副施設長の創設 ・・・委員会や会議、研修の統括
②リクルート専門課長職の創設 ・・・人材育成チームと併合してリクルート強化
③人材育成チームの創設    ・・・現場での相談指導、スキル研修等
④主任をシフトから外す    ・・・主任の役割を明確した上での独立



 [効果と職員配置の変化]
 2016年度から開始、2016年度は人材育成チームと主任の独立が難しく現場のシフトに入る事が多くありましたが、2017年度は職員の欠勤以外シフトから外す事ができました。

シフトから外れる事ができた理由は、主任、人材育成チームが細やかにユニット支援を行っていくことで、トランスや個浴介助、認知症対応など不安に思っていた職員が相談や支援をタイミングよく得た事やリーダーの悩みに対して相談援助が必要なタイミングでできた事などが、リーダーや一般職に不安や不満でなく安心感が培われてきて、職員の皆さんがその職位の必要性を感じ認めてきたからです。

また、人材育成担当副施設長が委員会や会議の統括をする事で、法人や施設や現場でのボトルネックを発見整理し現場に落と込むことで「言いぱなし」「やりぱなし」ではなく、また「やらされた感」でなく自分たちに必要な事として受け止めはじめてきています。



下表は職員配置の変化を一覧にしています。




[結 果]
  1. 2012年は介護職が71人で「人が足りない」でした。2017年度2月時点での介護職48人です。法人・施設は48人で足りているとしていません。2018年度4月の8名入社で介護職が55名になり、2018年度はユマニチュードの手法を取り入れ、更なる利用者目線での介護支援を目指しています 。
  2. 全員参加型研修(介護課、看護課、支援課、総務課、栄養課、シルバー課、パート、保育)で全職員120名を3班に分けて、働きやすさと不適切ケアをテーマに価値観を共有できる話題でグループワークをしました。他職種の方とのコミュニケーションは活発で、「法人の強み」に対する発表は、とてもポジティブな発言ばかりです。
    「向上心日本一」「人の良さ、意見が出しやすい」「おもてなし、挨拶、笑顔」「情報をあいまいにしない」「辞める人が少ない」「笑顔が絶えない」など
  3. 介護職48名体制(介護配置2.8:1)で、上記全員参加型研修3回とも全て勤務時間内でできる様に対応しています。
  4. 2012年度の公休取得率90%、超勤20時間、退職者8名が、2017年度では介護職員が23名少なくなっても公休取得率100%、超勤6時間、退職者3名と勤務環境の改善が目に見えて良くなってきています。2018年度の超勤の目標はゼロです。
  5. 組織体制の4つの変革は、職員にとって自分自身の不安や悩み、そして不満を十分に解消できる事で、受入る事ができてきています。また、その事で法人の方針は自分自身の成長するためには必要な事として認識してきています。
  6. 看護、PT/OT、相談員、ケアマネ、栄養、シルバー等の他職種の方とのコミュニケーションも良く、いかに連携して利用者のADLBPSDの向上を図るかを考えながら仕事をしています。
  7. 5S活動は、シルバーの経験知恵を上手く活用しています。材料単価を記載してコスト意識を植え付けています。


[考 察]

好循環になったポイント
  1. 法人トップのトップダウンが強く、目標や理念の意識付けや達成に向けての声掛けや支援を細やかに行っていること
  2. 中間管理職が機能するようになり、更なるトップダウン、そしてボトムアップできるようになったこと
  3. 主任、人材育成チームが細やかにユニット支援を行い、「コミュニケーション=信頼」が違和感なく繋がり、「チームワーク=目的意識」が熟成されてきたこと


振り返り  
法人常務、施設長、人材育成担当副施設長、リクルート専門課長、人材育成チーム、主任、リーダー、新人指導者、新人、看護課長、栄養課長、支援課長(相談員、ケアマネ)、シルバーさんと話をしました。皆さん、毎日を楽しくやりがいを持って仕事して、法人・施設で働く事を誇りにもっています。



6年前、不安や悩み、そして不満を持ちながら仕事をこなしていました。法人が求める理想の介護をしていきたくても、定着性が悪く、また人が中々補充できない事もあり、モチベーションやスキルの低下が目に見えてきていました

この法人・施設・職員が2年前から変化した理由は、人がいない中でも「組織体制の切り替え」に踏み
切った事だと思います

その中でも上記ポイント3の『主任、人材育成チームが細やかにユニット支援を行い、「コミュニケーション=信頼」が違和感なく繋がり、「チームワーク=目的意識」が熟成されてきたこと』が、職員に安心感を与え中間管理職の機能を動かし、法人トップのトップダウンを上手に職員に伝えることができ、職員からのボトムアップにも繋がってきていると思います。